第80話   酒田の布袋竿 U   平成16年02月16日  

先日従兄弟が母親の実家から貰って来たと云って大正時代の頃の布袋竿を見せてくれた。おそらく母の父が新井田川のマブナやハゼ等を釣る為に使った竿と考えられる。長く天井裏に保管していた為に思ったほど痛んでいなかったのでまだ数本は実用に使えそうなものがあった。使用に耐えぬ竿の中から根付の太い物を一本杓の柄でもしようかと思ってもらってきた。

酒田の布袋竹は寒いがために、南の地方に育った布袋竹と違い多少固めの竹が多い様に思える。がしかし、布袋竹で竿に出来る竹を探すには、結構竹薮が多いので苦竹ほど採取が困難ではない。

布袋竹を竿にするには原則として一年古を使用する。当地の布袋竹で使えるのは2年古まででそれ以上は硬くて矯めるのが難しく使い物にはならない。そして出来るだけ真竹のようにすんなりと伸びた節込みのない竹を選ぶ。

根から掘り出した竹は出来るだけ早い内に節を削らないと硬くなりどう仕様もなくなる。掘り出してから月日が経てば立つ程に硬くなるからである。そして焦がさぬように油を抜きながら一回目の矯めにかかる。当地では庄内竿と同様に竹の表皮を大事にするので、表皮に焦げが出来る事を極端に嫌う。大体一回の矯めで竿は完成するが、更に微調整を2回目で行う。

この2回目の矯めで使える竿として完成する。完成まで数年かかる庄内竿と異なり、布袋竹は工程が少しで済むし、尚且つ直ぐにお金に変えられた為に酒田の釣具屋では盛んに作られていた。

それでも当時酒田で作られた布袋竹のこれらの竿は、九州産の安竿の56倍良いものになると軽く10倍以上はした。庄内竿と比べても、そんなに安くはなかった様に思う。細くて長い高級品に至っては庄内竿の同等かそれ以上の価格であったように記憶している。

細くて長い布袋竹のその竿は庄内竿と異なり穂先が特別繊細で胴がやわらかく篠野子鯛(黒鯛の当歳魚)などの小物釣には特に威力を発揮する。鶴岡では余り使われなかったが、酒田の釣り人には無くてはならない竿であった。時たま売りに出るベテランが使い込んだ中古品でさえも自分には手が出ないような価格であった。今ではもうそんな竿も見ることが出来ない。